Japanische Klassiker mit Furigana
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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
Lesen Sie 山彦乙女 (やまびこおとめ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.360 Zeichen · 251 Bildschirme
「――あれが法王だな」
半之助はそう呟いた。花世が、月夜には雪の宮殿のように見える、と云った。その山にちがいない。石英質の岩ででもあるのか、断雲が月を隠しても、そこだけはかなりはっきりと、ほの白く見ることができた。
だがもちろん、それを眺めているほどの、気のゆとりも、時間も、あるわけではなかった。どこかうしろの、やや右に寄った下のほうで、欠けた岩の転げ落ちる音がし、なにかに驚いて、ばたばたと鳥の飛び立つのが聞えた。彼はまだ激しく喘ぎながら、追って来る音の、方向に耳をすました。
空気は冷たく、結晶したかのように、澄みとおって、吸いこむと鼻や喉の粘膜がひりひりし、吐く息は白く凍った。
――たしかに来る。彼は身を跼めて走りだした。
それはまっすぐに、ゆるい登り勾配で、甘利山の頂上へと、続いている。尾根を左へ(いま雲に閉ざされて見えないが)くだれば、彼が住居にしている、岩穴のある谷間へ出る筈であった。――そこはまずい。もしそっちへ逃げて、こんな状態で、かれらに岩穴を発見されたら、もうこの山にとどまることは、できなくなるだろう。
彼は立ち停った。そしてすぐに、そこから斜面を左へおり、岩場を這うようにして、逆に、元のほうへと戻った。