Japanische Klassiker mit Furigana
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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
Lesen Sie 山彦乙女 (やまびこおとめ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.360 Zeichen · 251 Bildschirme
二
するとそこに、次高来太の姿が現われた。
彼は野獣のようにみえた。着物も袴も、ひき裂け、綻びている。髪毛はばらばらになり、顔には泥と(茨かなにかで傷ついたのであろう)幾筋も乾いた血の痕がある。眼は三角につりあがり、歯を剥きだし、右手に刀を持って、へんに不自然な姿勢で、喚いていた。
「おのれ、どうするのだ、こんな卑劣なまねをして、恥を知れ」
「なにを怒ってるんだ」
「あれです」
捕方の一人が、来太の足もとを指さした。鉄で作った大きな罠が、来太の右の足を、がっちりと噛んでいた。噛み合わされた鉄の、鋭い歯は、おそらく骨まで届いているだろう。脛の下から革足袋も草履も、ずっくり血に浸されていた。
「この土地の者が、猪にかけた罠だそうです」
捕方の者が云った。
「その罠に踏みこんだのです」
「――なんと」
主馬は眼をみはり、平四郎にふり返り、それから右へ、来太の前を半周した。
来太は喉も裂けよと、喚き、片方の自由な足で、辛うじて身を支えながら、むやみに刀を振りまわした。今や、彼のみじん流は用をなさない、苦心経営、鍛練に鍛練して、江戸でも指折り、といわれた彼の腕前は、もはや三歳の幼児を、脅す役にもたたないのである。