Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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どうひょう

道標

宮本 百合子

Lesen Sie 道標 (どうひょう) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 846.457 Zeichen · 1672 Bildschirme

Aozora Bunko

「お父様も。どうぞ」

つまった声で云った。

「モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へお着きになれば、万事吉見さんがとりはからってくれるはずですから」

泰造はもう一度伸子の手を握りなおし、立っている人々一同に挨拶すると、列車のステップに立って、こちら向きに立った。ほとんどそれと同時に列車がすべりだした。つや子があわててステップへ出て来た。そして泰造のうしろからのり出して、伸子に向っていくども手を振った。

――埃っぽい小さい旋風が遠ざかってゆくように佐々のうちのものはパリを出て行く。伸子を一人のこして。目の前から去ってゆくほこりっぽい旋風はこの三ヵ月の間、伸子の皮膚をちくちく刺しつづけた。そのかすかなみみずばれや、痛みが、伸子にのこされた佐々の家庭の風変りな情愛のしるしだった。

けさ、もう家主の帳簿の上では返却記載ずみの食器で朝の食事をしていたとき、バルコンに向ってテーブルについていた泰造が急に半白の髭のある顔を上気させ、

「このガキ、ひとりのこして帰ると思うと可哀そうだ」

早口にそう云って、クッという音を立てながら涙をこぼした。三十歳になっている伸子を、わざとガキという表現で冗談まぎらしにいう泰造のこころもちが、伸子の心の底にまで徹った。