Japanische Klassiker mit Furigana
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どうひょう
道標
宮本 百合子
Lesen Sie 道標 (どうひょう) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 846.457 Zeichen · 1672 Bildschirme
「自分のものは何を忘れて来た? え? 何一つ忘れたものなんかないじゃないか。わたしだけ、よごれくさったものを着て歩かなくちゃならないなんて!」
くいつくように睨んでそういう素子の顔に赤みがさして来て眼のなかに涙がわいた。
「わたしのことなんかどうでもいいと思っている証拠だ。いいよ! いつまでだってこうしてここにいてやるから!」
あのとき、ウィーンの公使館からきいて来たと云って、黒川隆三という青年が二人を訪ねて来なかったら、素子はほんとに一日ホテルの寝室から出なかったかもしれなかった。
二つのベッドの間のテーブルの上で電話のベルが鳴ったとき、素子は、そっちを見むきもしないで、伸子の腕をつかんでいた。自然、伸子もその場から動けず、答えてのない電話のベルは、重いカーテンで朝の光を遮られた寝室のなかで、三四へんけたたましく鳴った。やがてベルがやんだ。しばらくして、ドアをノックするものがあった。それが、黒い髪の毛に黒い背広を着た、若いのに世なれた調子の黒川隆三だった。
「やっぱり、おいででしたね、下で、電話に出る方はないが鍵が来ていないっていうもんですから。――いきなりお邪魔しました」