Japanische Klassiker mit Furigana
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あるたんぼうきしゃのはなし
平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕
平林 初之輔
Lesen Sie 平林初之輔探偵小説選I〔論創ミステリ叢書1〕 (あるたんぼうきしゃのはなし) von 平林 初之輔 (ひらばやしはつのすけ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 113.247 Zeichen · 229 Bildschirme
あの人がひどく苦しんでいた証拠ですわね。
「それでどうなさるの?」と妾はいっけん冷静な調子でききかえしました。「妾のことなんかちっとも考えて下さらなくてもいいのよ、貴方のすきなようになされば、貴方のいいと思うようになされば」もちろん、妾の表面の冷静さは、まぶたにいっぱいたまってくる涙が裏切っていました。
「僕にはどうもできないんです。僕は卑怯者です。貴女が命令して下さい。今すぐに貴女と一しょに逃げろとでも、これっきり貴女を思いきってしまえとでも、私はそのとおりにします」
「ではもう妾たちは別れましょう。これっきり、赤の他人になっちまいましょう。そうするより外に方法はないわ、また貴方は少なくともそうすべきですわ」
こう言いながらも妾の胸は裂けるような苦しみでした。つい三十分前まで、未来永劫にむすばれているとばかり信じきっていた二つの魂の間に、もう一つの魂がはいっていたなんて。妾はどんな苦しみにでも堪えられる強い女だと今の今まで思っていたんですが、このことだけには堪えられなかったのです。どんなに人からうらまれ、憎まれ、世間から、さげすまれ、嘲られようとも、妾はあの人の魂をしっかりとつかんではなしたくないと思ったのです。