Japanische Klassiker mit Furigana
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どうひょう
道標
宮本 百合子
Lesen Sie 道標 (どうひょう) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 846.457 Zeichen · 1672 Bildschirme
箱根へ行っての帰りその女と来て、山の手にある都久井の家の近くで、その女のひとが自動車をおりた。
「じゃ、ここで失礼するわ、そう云って女がおりるとね、都久井先生、日ごろになく物も云わないで女の手をぎゅっと握った。何しろ五年の間、ただのいっぺんもそんなことをされたことがないんだから、万感交々さね。涙ぐんでしまった。すると、都久井、いきなりその女のきれいな白い手をかじりはじめたんだ――。はらが空いたんだ」
こんどの話では人々はあまり笑わなかった。それは、愛情の表現だという議論がおこった。
「そう思うのは、常識さ。断然、そうじゃない。彼ははらがすいたんだ」
話してを非難するのでもなく、話題に興じている人々を批評するのでもない。自分として苦しい気もちが、伸子の内に渦まきたった。はらが空いたというひとことに云われている感じ。だが美しいもの、いとしいもの、それを自分の口からたべようとする人の心。この社会に、渇望をもって生きているということに関連して、都久井の話には伸子の心をつかむものがある。晩秋のヴェルダンの日暮、ドゥモン要塞の霜枯れはじめた草むらの中に、落ちている小さな金の輪のように光っていた一つの銃口。