Japanische Klassiker mit Furigana
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どうひょう
道標
宮本 百合子
Lesen Sie 道標 (どうひょう) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 846.457 Zeichen · 1672 Bildschirme
「何を云われて来たのさ! ぶこ」
「――モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)にのこらないかっていう話だったんだけれど」
それだけいうのに伸子は息苦しく声がかすれた。それほど胸がいっぱいだった。その上、伸子は、そういうとき、素子の眼を見ず、ベッドにかけている自分の斜横の空間に視線をそらした。伸子は、素子の顔が見られないような気持がし、また、自分のなかで煮えたぎりはじめたばかりのことを、すぐ素子に告白しなければならないこともいやなのだった。
「――それで、ぶこ、何て返事したんだ」
「返事はしないわ――来週」
ふん、という素子の鼻音が、伸子の耳にかすかにききとれた。
「どうせ、そんなこったろうと思った」
素子は、ベッドにかけている伸子の前の床の上をあっちこっち歩きはじめた。
「いいじゃないか。ぶこにとっちゃ願ったり叶ったりじゃないのか」
「…………」
「わたしに遠慮はいらないよ」
突然素子は、は、は、と短く、神経質に笑った。
「わたしに遠慮するような佐々伸子じゃなかったわけか」
なお口がきけないでいる伸子に背を向けて、素子は自分のデスクの前へもどった。そして片手でガタンと音をたてて椅子をおき直し、そこにかけながら、二人の間にのこされているのは、もう事務的なそのこと一つだ、とでもいうようにむこう向きのまま云った。