Japanische Klassiker mit Furigana
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どうひょう
道標
宮本 百合子
Lesen Sie 道標 (どうひょう) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 846.457 Zeichen · 1672 Bildschirme
伸子を認めた瞬間、須美子の黒いすらりとした姿が椅子から立ち上ると同時に、はげしく前後にゆれた。伸子は思わずかけよった。
「佐々さん」
繊くて冷えきった須美子の指が、万力のように伸子の手をしめつけた。
「よく来て下さいました」
「ごめんなさい。電報、やっとさっき拝見したもんだから」
伸子は、ささやいた。
壁ぎわのベッドの上によこたえられている磯崎恭介の眠りをさますまいとするように。
「パリにいらっしゃりさえすればきっと、来て下さると思いましたわ。佐々さん。わたしも、こんどという、こんどは……」
伸子の左肩の上に顔をふせた須美子の全身がわなわなとふるえた。伸子は両手でしっかり須美子を抱きしめた。須美子は、けさから、どんなにこうしてすがりつける者をもとめていたか。それを、身がきざまれるように伸子は感じた。ついこの六月下旬に、須美子は田舎にあずけていた上の子供に死なれたばかりだのに。
「なんていうことなんでしょう!」
須美子の上にかさなる悲しみに対していきどおるように伸子が云った。
「歯です」
「――歯?」
「おととい、急に奥歯がひどく痛むって、お医者さまへ行きましたの。