Japanische Klassiker mit Furigana
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どうひょう
道標
宮本 百合子
Lesen Sie 道標 (どうひょう) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 846.457 Zeichen · 1672 Bildschirme
食料品販売所のドアをあけて入ると、その内部は冬の間じゅうより奥が深く暗く感じられ、ゆるんだ店内の空気に、床にまかれている濡れオガ屑の鼻をさすような匂いと、燻製魚類の燻しくさい匂いとがつよくまじった。つり下げられている燻製魚の金茶色の鱗にどこからか一筋射し込む明るい光線があたって、暗いなかに光っている。そんな変化も春だった。
伸子のものをかきたい心持は、一層せまった。瞳のなかに疼く耀きをもって、伸子がマリア・グレゴーリエヴナの稽古から、アストージェンカの角を帰って来ると、毛糸のショールを頭のうしろへずらした婆さんの物売りが、人通りのすきから、
「お嬢さん!」
と伸子をよびとめた。そして一束の花束をさし出した。
「雪の下! 春の初花、お買いなさい、あなたのお仕合せのために」
伸子はその花束を眺め、ポケットからチャックつきの赤いロシア鞣の小銭入れを出し、婆さんに三十五カペイキやって花束をうけとった。雪の下という花は、日本で伸子の知っている雪の下のけば立った葉とちがって、つるつるした団扇形の葉をもっていた。その葉を五枚ばかり合わせてふちどりとしたまんなかに、白菫に似たような肉あつの真白な花が数本あつめられている。