Classiques japonais avec furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Lisez 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 508 883 caractères · 1017 écrans
――まず早くても、そこを立つのは今朝あたり、約束の場所へ姿を見せるのが、今日の夕刻頃になるにちがいない。
そう武蔵は、胸づもりに、想像していた。
それに今はまた、これぞといって、先を急ぐ何事も心にはないし――牛の歩みも遅いと思わなかった。
牝牛の巨きな体は、山の夜露に濡れていた。朝の草の色を見ると、牛は頻りに草を食った。けれど武蔵は、それも牛の意のままにまかせていた。
――すると、民家と向い合っている伽藍の辻に、なんとか桜と、名所名にでもありそうな桜の老木があって、その下の塚に、歌を刻んだ碑が見える。
誰の和歌か。――思い出そうともせず、武蔵は、そこを二、三町行き過ぎてからふと思い出して、
「そうだ……太平記の中で」
と、つぶやいた。
太平記は、彼の少年の頃の愛読書の一つだったので、或る箇所は、暗誦しているくらいだった。
で――今見かけたその和歌から、少年の頃の記憶が甦って来たのであろう。緩々たる牛の背で武蔵はなにげなく、その和歌の載っていた太平記の一章を、口のうちでそら読みした。
――志賀寺の上人は、手に一尋の杖をたずさえ、眉に八字の霜を垂れ、湖水の波に水想観を念じたもうに、折りふし、京極の御息女所、志賀の花園の帰るさを、上人ちらと見そめ給い、妄想起りて、多年の行徳も潰え、火宅の執念に一切を喪い給う……