Classiques japonais avec furigana
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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Lisez 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) de 国枝 史郎 (くにえだしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 188 242 caractères · 380 écrans
と、卜伝の声がした。
「後へ退れ、一間後へ。後退りに歩け、背を向けるな」
そこで蔵人は後へ退った。
卜伝は闇の中に立っていた。片手で薬箱を肩に担ぎ、片手で木刀を青眼に構えた。眼を据えて暗中を睨んだ。
心眼に昼夜無矣!
黒々と相手の姿が見えた。老松を背にして立っていた。抜き身を下段に付けていた。
仄々と一道の白気が立った。刀身から上る殺気であろう。プンと腥い匂いがした。
と、人影が右へ揺れた。どうやら右手へ廻わり込むらしい。卜伝も右手へ緩かに廻わった。間は二間離れていた。闇ばかりが立ちこめていた。
シーンと四辺は静かであった。
その時であった、遥かの彼方、小幡屋敷の辻にあたって、一本の火柱が燃え上った。
「出たあーッ」
と蔵人が声を上げた。
火柱がしばらく躊躇っていた。だが、ユラユラと左右へ揺れた。東に向かって歩き出した。武田左典厩の屋敷の方へ、辻を曲がって行くらしかった。
蔵人には我慢が出来なかった。もう危険などは眼中になかった。闇を突っ切って走り出した。
「浮雲い!」
と卜伝が一喝した。
暗中の人影が蔵人に向かって、ただ大鷲の羽摶くように、颯と飛び掛かって行ったからであった。