Classici giapponesi con furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Leggi 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 231.525 caratteri · 463 schermate
「おやじ、永いこと世話になったが、奈良へ立とうと思う。弁当の支度をしてくれ」
「え、お立ちで」
老爺はその不意なのに驚いて、
「あの小僧めが、飛んでもないことをおせがみしたので、急にまあ……」
「いやいや、小僧のせいではない。かねてからの宿望、大和にあって有名な宝蔵院の槍を見にまいる。――後で、小僧が参って、そちを困らすだろうが、何分たのむ」
「なに、子どものこと、一時はわめいても、すぐケロリとしてしまうに違いございませぬ」
「それに、居酒屋の主人も、承知はいたすまいし」
武蔵は、木賃の軒を出た。
泥濘には、紅梅が落ちていた。今朝は拭ったように雨もあがり、肌にさわる風の味もきのうとちがう。
水かさが増した濁流の三条口には、仮橋のたもとに沢山な騎馬武者がいて、武蔵ばかりでなく、往来人はいちいち止めて検めていた。
聴けば、江戸将軍家の上洛が近づき、その先駆の大小名がきょうも着くので、物騒な牢人者を、ああして取りしまっているのだという噂。
問われることへ、無造作に答えて、何の気もなく通って来たが、武蔵はいつのまにか、自分が大坂方でもなく、また徳川方でもない、無色無所属のほんとの一牢人になっていることに、改めて気づいた。