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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页

青空文庫

夜も寝るひまなぞろくろくない。いとど短い山上の夏の夜を、いれ代ってお月様が、形を変じつつ、皓々と照り翔ける。まめな惑星が目じろぎもせず徘徊する。悠々、空を埋める恒星の大群、蜿蜒、天を貫く銀河の長流は、宇宙外の宇宙、超銀河系の星雲まで加えて、われらの葉尖きを、灼き爛らさんばかり、火花を散らして、軋りめぐる……。天地開闢をしのばせる、古くして新らしい、神秘の火花を――。

これら無限の天体が放射する、鋭い光芒や宇宙線の波動は、その本源の永遠性にあやかれとか、一種不可思議の精気を、われらが身うちにも、醸し出すもののようだ。そんな調子で、いくらか息が吐けるのは、雲や霧の被衣に包まれた時ぐらいのものだろう。従って、疲れもよほど大きいはずだが、極度の快よさと、忙わしさと、そしてこの天来の甘露の功力とが、それを物とも思わせないらしい。

同類の小灌木や草本たちも、もちろん大騒ぎだ。雪消おそしと、ういういしい嫩葉もろとも、おのおのしたくしてあった、色鮮かに、意匠もとりどりの、しかし揃って貴やかな花冠をかざし列ね、お日様をしたって、いじらしくも朝から晩まで……華奢な首筋がどうかなりはせぬかと、よそ目には案じられるほど、あの偉大な火球を追いつづける。