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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页
八 わかれ
イヤまったく美しい!――では、やっぱり同じことかナ? ハハハハ……」
何にしても、彼が相当に俺の境涯を読み取ってくれた、と信じられるのは、実に大きな感激であり、それが当然だと思う一方、又大そう不思議な事のようにも、考えられる。彼はなお、俺や俺の周囲を通して、背後の、見えない大きな力を、もっとしっかり捉まえようと、気を励ましているらしい。そこが最も大事で、また最もむづかしいところなのだろう。
彼の感動と苦吟が、脈々と俺に伝わって来るのを感じて、俺はすっかり興奮に包まれてしまった。思えば彼の方でも、確かに初めから、一種の電波を発していたに相違ない。人間同士にしても、おそらく単に五感だけで、交渉し合っている訳ではなかろう。今では彼が、俺の「言葉」を、かなりよく解していることは、疑う余地がない。もはや俺は、自分の口不調法なんか、まるで苦にならない。俺は何だか世の中が、一段広くなったような気がして、愉快で愉快でたまらなくなった……。
八 わかれ
こうしている間に、時は飛ぶように経っていった。上層の山霧は、ようやく濃く昏く、づっしりと圧力を増して、この頃の天気ぐせで、あやにくや、今日もまた雨になった。