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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

貧乏草

貧乏草

『平太よ。また塩小路などを、うろうろと、道草くうて、帰るではないぞ』

使の出がけに、清盛は、父忠盛から背へ喚かれた。――その声に、たえず背を追われているようなかれの足つきだった。

何といっても、父は、こわい。おととし、保延元年である。その父親について、かれは初めて、四国、九州へまで渡った。

在京の兵をひきい、内海の賊徒を平定に征ったのだ。春四月から八月までかかって、海賊の頭株以下三十余人を数珠つなぎにし、意気揚々と、都へ、凱旋したときの晴れがましさは、忘れ得ない。

(おやじは、えらいのだ。……やはり、本当は、偉かったのだ)

清盛は、それ以来、父への認識をあらためた。こわさが、違ってきたのである。

少年時から、家庭を通じて、かれの心に、映されてきた父なる者は、およそ、社交ぎらいの物ぐさで、出世欲もなければ、経済的なあたまもなく、ただ貧乏性を頑に守ることだけが強い一武人としか見えなかった。

が、決して、それは、童心の描きあげた父親像ではなく、多分に、母から日ごろに吹っこまれる愚痴やら環境にも依るものだった。もの心ついて以来のかれの記憶によれば、都も場末の今出川の荒れやしきに、十年の余も、雨もりのつくろい一つせず、庭草も刈らず、住み古して、家の中では、父と母とが、のべつ夫婦喧嘩ばかりやっていた。