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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

わんわん市場

また、それが大自慢の、よい母御前をおもちではないのか。――忠盛どのへも、いうてあげたがよい』

それから始まって、清盛を前に、かれの両親の棚下ろしである。子として、これを聞くほど、辛いことはない。清盛は、ぼろぼろ泣いた。

だが、忠正の家庭とて、楽でないことは、かれにもわかる。朝廷にも、院の方にも、衛府や武者所の制ができて、たくさんな武士をおくことにはなって来たが、いわばこれらの人間は、野性で勇猛な点だけを取りえに思われて、藤原貴族などからは、紀州犬や土佐犬の性能なみに、番犬視されている公な奴僕にすぎないのだ。もちろん殿上人との同席はできず、地方に所領はあっても、たいがい山地や未開地である。平氏も源氏も、おしなべて皆“地下人”と呼ばれていた。給田の収入は薄く、余得もなく、武士の貧乏は、通り相場なのだった。

わんわん市場

二月の寒風を、初東風とかいう。春だと思うせいか、よけい冷たい。

『ああ、腹が減った。すき腹のせいもあるぞ』

叔父も叔母も、飯を食うて行けともいってくれなかった。――それさえ、かえって幸いに思えたほど、そこの門は、逃げるように飛び出して来たのである。