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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

そのように追って来るほどならば、前夜に約しておいたものを」

「それがしが不覚でした。たとえお微行にせよ、従者の十騎くらいは具され、茶や弁当の用意なども持たせて、悠々お出ましのものとのみ独り合点しておりましたために」

「は、は、は。つねの遊山なれば、そうありたいが、きょうの山詣では、飽くまで往年の業火のあとを弔い、無数の白骨に一片の回向をもせばやと思う菩提の心にほかならない。――酒壺珍味をさげて登ってはすむまいが」

主人の光秀がそういう横顔を、天野源右衛門はつよい眸で見つめていた。左馬介はそのことばを少しも疑わない様子で、

「きのうは何かとお気にさわるような儀を申し上げたかもしれませんが、それがしは生来の小心者とて、この際、ただただ安土への聞えの悪しからぬようにと希う余りに申し上げたまでに過ぎません。かく御軽装にて、ふと菩提のお心が、山へお運びを促したものとあれば、たとえ信長公のお耳へ入ろうと、よも深いお咎めはございますまい。実はこの光春も、つい坂本の近くに在城いたしながら、まだいちどもその後の山上を見ておりませぬ。きょうはお供をいたしながら、諸所一見できるのも、時あっての倖せとぞんじまして、後をお慕いして来ました。