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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
憤涙
営中の夜もすでに、更けて、所々のかがり火のほか、墨の如き夜色である。――番に立った浅野の家来の足もとに、飛脚の男は、ふたたび失神したように地上に平たくなっている。
桜の実か、毛虫か、時々そこらに、ぽとりと、何か落ちる音がしていた。
憤涙
夜は亥の刻(午後十時)頃であった。
まだ秀吉は起きていた。
食事後。折ふし何処からか立ち帰って来た蜂須賀彦右衛門を見ると、彼と堀秀政だけを伴って、陣中の居室としている書院へ移っていた。
そこでの鼎坐はだいぶ長かった。小姓たちまでみな退けて、極く内輪の密談らしく思われた。ひとり許されていた連歌師の幽古のみが、頃をはかって、陰で茶筅の音をたてていた。
そのとき、たたたたと小走りな足刻みが遠くから聞えた。かたく人払いを命じられているので、杉戸口まで来ると、当然、その跫音は小姓溜りの咎めに会って、遮られているふうである。
一方はひどく急きこんで来た様子だし、一方は血気生意気ざかりの年少者ばかりなので、何かことばの弾みから喧嘩でも始まったような声もしてくる。
「幽古……何だ?」
秀吉のいる所からこう問われて、幽古は耳をすましたが、