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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

夜ばなし

「博多の宗室でござりまする」

まず、頭を下げると、次の若い町人もそれに倣って、

「博多の宗湛にござりまする」

と、いった。

番士たちには、それだけでは分らない顔つきがあったが、奥の衛士小屋の前で番頭の侍が、どうぞ、どうぞ、と笑顔で通行を促していた。

夜ばなし

表御堂が建築の中心となっているが、人の中心は信長の座所にあった。本堂内陣横の橋廊下をこえ、さらに大廊下に従って、墨絵の間、金碧の間、何の間と、幾つも数えて行かなければ、彼の声は洩れ聞えて来ない。

その信長の声のする所、外にはせんかんと庭園の泉流がせせらぎ、向う側の幾坊の棟からは、折々、明るい女性たちの嬌笑が風に送られて来た。それはまた訪客たちの耳にもふと和やかな気やすさを与え、峻烈をもって鳴る主の一面に、べつな親しみを抱かせた。

「――そうか。……するとあすの朝はもはや住吉の浦から立つわけだな。老練な五郎左の佐けおることだ。諸事、安心いたしておると五郎左にも伝えおけ、信孝にもいえ。やがて中国で対面するであろう。信長も近日には下る」

信長のことばに、額を畳につけたまま、見上げも得ずにいる侍は、お座之間の次に姿を置いていた。