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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
さみだれ雲
「元就のむすめです。亡父の遺訓には、利を求めて名を捨てよとはございません。あなた様とて、毛利家に忠義のゆえをもって、わたくしを娶合わされ、さらにまたこの度は、輝元様の目鑑をもって、軍目付にこの城へさし向けられたお立場ではありませぬか。……いかなる天魔がわが良人をこうも浅ましい者にはなしたかと、人の心の頼りなさが情けなく思われまする。……あれ、あの声、門の外にひしめくお味方の罵る声をお聞き遊ばせ。生きれば生きるほどお身の辱です。毛利家の名を汚しまする。さ。お急ぎ遊ばしますように」
血相をこめて、迫ると、元祐はなお死を惜しんで、ふいに逃げかけた。
「御卑怯なッ」
夫人は、良人へ抱きついた。鮮血が走った。
それから程経て、彼女の美しい死骸は、城廓の東の丘に発見された。良人元祐の首を前に置き、一枝の花を供えて、そのまえで見事に自害していたのである。
俯伏した黒髪は、西の方、毛利の本国芸州の方へ向いていた。
さみだれ雲
一城一城、連環の小城は、かくて箇々に潰滅された。
のこるは一つ、高松城の主力のみが、ここにぽつねんと孤立のすがたになった。
もとよりこうした頽勢は、高松城の清水宗治から、毛利家へ向って頻々と、