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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

翠紗の内

と、顧みて苦笑しながら、局中の者を集めて、夜は夜で、得意の「むかし噺」をせがまれ、盛衰記の一節を、おもしろおかしく物語っていた。

出陣までの余す日はあと一日しかない。その夜のうちにも総評議があるかと予期していたが、本丸は寂としているので、彼は二の丸へ入って寝た。

次の日は、月の晦日。光春は終日、心待ちに控えていたが、依然そのことの沙汰はない。夜に入るも何ら本丸の空気にうごきはなく、家臣をやって様子を訊かせると、光秀はすでに寝所へ入って眠ったという。

「……はて?」

光春はあやしんだ。しかし彼も眠るほかなかった。

翠紗の内

――だいぶ眠ったという気もちがする。従って夜はすでに丑満の頃おいであろう。左馬介光春はふと眼をさました。

ひそひそ、人声がする。

眼がさめたのはそのためだった。ふた間ほど隔てた宿直部屋あたりである。

やがて人跫が近づいて来る。そして静かにふすまが開いた。彼からものをいわぬうちに光春のほうで、

「なにか」

といったので、眠っているとのみ思っていた宿直の侍はすこし戸惑いしたらしい。

あわてて、ぺたと手をつかえて告げた。

「大殿光秀さまが、御本丸でお待ちうけの由でございます。