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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
近衛殿の屋根
順逆無二門 大道徹心源
五十五年夢 覚来帰一元
と、最後の一語を吐いたといわれているが、まさに彼にとっては、本能寺の挙は、順逆に問われる問題ではないとしていたものであろう。
信長も一臣子、自分も一臣子。真の大義と、一臣の大道とはまったくべつにありとなして、独り天に誓っていた悲心があったにちがいない。
だが、すでに主を殺す。これは、武門と武門の道義がゆるさない。いかに情を酌むも民衆もまたゆるさないことだ。故に、この道義と秩序を破壊したひとりの民を裁く者も、また民の中なる者だった。
近衛殿の屋根
休戦の約は解かれた。
戦闘開始。
期せずして、一鼓の下、城中からも、寄手からも、わっと武者声がわいた。
とき、すでに陽は高い。夏の朝だ。朝からかんと照りつけている。
城兵の一隊は、つい今し方、親王のおわたりあった唐橋の大手門から、槍をそろえて突き出して来た。
これは、そこにあった藤田伝五と並河掃部の両部隊が、攻口を争って、混み合って来たため、その機先を制した反撃であった。
――が、城兵も寄手も、顔を見あうと、唐橋の中ほど約三間ほどを、まったくの空虚にして、双方とも、ふいにその出足を、はたと止めてしまった。