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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
沈々と黙し合うことややしばしの後、光秀は唐突に、
「そうだ、こよいのうちにも、先発を出して、亀山の家中の者どもに、はや陣用意を触れさせておこう。左馬介、計ろうておくりゃれ」
と、云い出した。
光春はよろこんで立った。
その夜たちまち並河掃部、村上和泉守、妻木主計、藤田伝五などの将は、一部隊をひきいて、亀山城へいそいで行った。
四更の頃、むくと、光秀は刎ね起きて、臥床のうえに坐っていた。
夢でも見たのか。
或いは、なにかまた、否と思い直してしまったものか。しばらくすると、ふたたび衾を被いで、枕に顔を埋め、努めて眠ろうとしているもののようであった。
霧か、雨か。
湖の波騒か、四明颪しか。
夜もすがら大殿の廂を繞る嵐気が絶えない。枕頭の燭は、風もないのに、ものの気に揺れ、光秀の閉じている瞼のうえにゆらゆら明滅を投げかける。
光秀は寝返りを打った。みじか夜のこの頃とはいえ、彼にはなかなか明けるに遅い夜々であった。――がようやく、そのまま寝息に入ったかに思われたが、ふとまた夜具を掻い退けて、がばと半身を起し、
「於香。於香はいるか」
と小姓部屋へ呼びたてた。
遠くのふすまが辷る。