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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
いうまでもなく、ここの幹部だけには、やがて二刻とは経たないうちに、天下に何事が突発するか分っている。天下の何人たりと知るよしもない地異人乱を、未然に知っているということのいかに空怖ろしきものであるかを、さすがにここにいる面々とて、その眉目なり五体なり、また、ことばの五声に包みおおせている者はない。
「寄れ。源右」
光秀自身からであった。近々とさしまねいて、
「はや夜明けも程なかろうず。そちは一隊をひきいて先へ川を渡れ。西七条から堀川へ出よ。仔細は、味方の内より駈け抜けて、万一、本能寺へ事を告ぐる者などもあれば、直ちに、これを斬って捨てる事一つ。また未明のうちとて、早立ちの旅人やら京に通う物売りなどは疾く往来しているやも知れぬ。これに要意あるべき事一つ。――以上だ。すぐ先を駈けい」
「承知仕りました」
「あ、待て――」
と呼びとめて、また、
「同じ要意のために、疾く、保津の宿より山中の間道を経て、北嵯峨へ降り、地蔵院より西陣の道を備えつつゆく味方がある。忠秋、藤田伝五、並河掃部たちの一隊だ。霧を隔てて同志打ちすな。桔梗旗一本、竿横ざまに携えて行け」
と、かさねて云った。