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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

いざ来い。松野平介の一卜槍うけて末代の語りぐさとなせ」

と、頻りに敵軍をさしまねいていた。

落城の煙を仰いで、濠ばたの明智勢はもう傷口の手当をし合ったり、息休めをしていた。

松野平介の声は、たしかにそこまで聞えている。ときどき、明智の兵は、妙覚寺のほうを振り向いた。

「変なやつがいる?」

とでも思っているのか、たれも相手に立って来ない。

平介は、業を煮やし、味方が寺内に残して行った鉄砲を持ち出して来て、狙い撃ちに、明智の兵を三、四人撃った。

俄然、土けむりが、此方へ向って駈けて来た。そして妙覚寺の大門を包囲したが、まさか平介ひとりとは思わないので、

「油断すな。寺内に残兵がひそんでおる」

と、ひしめきつつも、容易に近づく者もなかった。

平介は、槍を把り直して、最前の大言をもういちど繰り返して、

「冥途のみやげに手頃な首はどれだ。どれもこれも愍れむべき細首。逆に組し、乱の手先に働いて末始終、胴によくつながっている首はあった例しがないぞ。どうせ捨てるものなら潔く松野平介の槍をくらって、せめてもの名残にしろ」

と、らんらんと睨め廻した。

妙覚寺にはまだ敵が残っているという沙汰に、附近にいた斎藤内蔵助利三の一部隊が、すぐ加勢に駈けつけた。