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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
に算出して、その数を味方なりと考え、この時期において、公を弑逆するの機をとらえた彼の頭のはたらきは、まことに賢いものだというほかはない。……しかしじゃな。ひるがえって、その野望が成るものか、成らぬものか。旗上げの名分をどう称える気か。彼は、その名分も理論で捏ね上げられるものと思っておるらしいが。……ばかな。たれが、そんなややこしい理論構説に耳をかそう。名分とは、民の直情に合致するものだ。大義とは、民のなかに持っている鉄則の信条じゃ。この標的を外しては、戦も政治もうまく運ぶわけはない。かりそめにも、逆と呼ばれる旗を持っては、たとえ、日向守がどれほど努力しようと、もうこの先は見えすいておる」
碗の中にのこっている冷めた白湯をのみほして、道三はなお云った。
「――それだけでも、利口者の莫迦を証するには充分だが、日向守一箇についていえば、もっともっと彼の愚は大きくなる。それは、もう彼もずいぶん功を立てたろうが、主家の恩寵は眷族におよび、丹波、近江にかけて、六十万石に封ぜられ、酬わるるに何の不足もない。しかも自分の心ひとつで、まちがえば一瞬のまに、わが身のみか、眷族の妻子老幼から、家中の将士の家族までを、いかなる運命に投げこむか……それを思えば、いかなる堪忍とてもできぬことはない。