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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
この草内に留まって一休みしたのは、夜来の疲れもあったが、かたがた、筒井順慶の向背が気懸りだったことにもよる。筒井家と明智家とは姻戚の関係がある。光秀の一子十次郎は筒井順慶の養子となっていた。当然、こんどの挙には、事前から両家のあいだに黙契があったのではないかと考え得られる理由があった。家康はそれを恐れたのである。
しかもその筒井順慶は、これまた中国出陣の命をうけていて、居城郡山を発し、装備された軍団を擁して奈良まで来ているのだ。時をまたず、いつでもすぐその意志を行動に移す備えができている。それだけに、小勢にしてしかも武装もない家康主従としては、甚だ不気味な存在にちがいなかった。
「奈良に滞陣したまま、きょうもまだ動かず、わずかに槙島の井戸良弘を京都へ行かせているようでは、事前に明智方と諜し合わせがあったものとは思えぬ。……なお数日の形勢を見、光秀の勢いが日に増して加わらば光秀につき、不利と見たら鉾を収めてべつに策を求めようとしているのが順慶の肚ではないかの、わしはそう観るが」
家康の見とおしに宿老たちもみな服した。その見極めさえつけば、宇治を通って、伊賀越えの間道をいそぎ、伊勢へ出て、海路、三河へ渡るのが、困難な道ではあるが、もっとも安全のように考えられる。