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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
――黒田の陣屋だぞよ。暗夜だから間違えるなよ」
「はい」
「待て待て。皆は、何しておるか」
「退屈しております。戦いがないのは辛いものと皆で話しておりました」
「幽古は、次におるか」
「おりまする」
「小姓部屋へ菓子など与えて、おでこ押しでも腕相撲でも取れと申してやれ。こよいはちと夜更かしせねばならぬゆえ、あれ達の居眠りふさぎに」
「かしこまりました」
「佐吉。行け」
「行ってまいります」
秀吉こそ、ゆるされるなら声をあげて泣きたい今であろう。
信長にまみえたのは、年まだ十八歳のときからだ。その手で頭も撫でられ、この手で草履もつかんで仕えた人である。
いまやその主君は亡い。
信長と彼とのあいだは、他人の思うような単なる主従観念では決してない。血もひとつ、信念もひとつ、死生もひとつと期していたのである。はからずもその主はさきだち、われのみなお生命ある身かと、それをあらためて秀吉は意識するほどだった。
(――君はわれを知る。われを知り給うものまた君を措いて世にあらじ。本能寺に御最期の火裡一瞬、君の御心中に、われを呼び給い、われに遺託ありしこと必せり。われ秀吉、微身たりとも、君が怨念と遺託に、なんで応え奉らずにあるべきや)