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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

男は、見物人の輪の向う側に腰かけていた。側には大きな荷物をおいて、片肱を凭せ、ひどく屈託のない若々しさを顔にたたえて、ときどき、大口あいて笑ったり、自分の鼻を抓んでみたりしている。

「オ。弥九郎がおる」

秀吉はつぶやいて、

「小六」

と、そばに佇んでいる蜂須賀家政へそっといいつけた。

「向う側の木の根に腰かけて、けらけら笑うておる色黒い痩せがたの若者。そちは覚えないか」

「見たようにもぞんじますが」

「泉州の弥九郎じゃ。後から本陣へ召しつれて来い」

云いのこすと、秀吉は他の者に守られて、先へ山へ帰った。

小六家政も、あとから程なく登って来た。弥九郎という若い商人をうしろに連れて。

「来たか」

秀吉は営中の楯を敷きならべた上に毛皮を展べさせて坐っていた。茶道衆に命じて一ぷく求めていたためである。信長から拝領した名碗をこんな所へも持って来て無造作に用いている。――それを茶道衆の手へもどして、

「ここへでいい。すぐ」

と、家政へいう。

家政は、念を押して、

「ここへ召し連れますか」

と、たずね、秀吉のうなずきを見て、すぐ弥九郎を呼び入れた。

「はいはい。恐れ入ります。