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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

弥九郎は、当然なことを、当然いっているような態度である。

「人様には、腰を低め、身には粗服、足にはわらじで、こう忙しくしておりましても、これで心はなかなか楽しいのでございます。申してはちと憚りありますが、中国御陣のお蔭で、外傷の薬、そのほかの薬種は、おもしろいほど売れますし、将来は海外とも交易し、あちらの薬種香料なども買い入れ、ずいぶん商人として大きく働ける時代でございますからな。――ここで商いの道を捨て、侍衆の端について、槍の持ちようから習い覚え、戦場の中をまごまごして見ましょうとも、どうも大した自信は持てそうもありません。これは考えものでございますな。子どもの時なら一も二もなく仰せに従ったでしょうが、唯今では急に御返辞はいたしかねます」

大きくても小さくても、町人は町人として、社会的にはっきり階級づけられている今日である。さむらいに取り立ててやるといえば、随喜して、仰せにしたがうというのが人情であり常識であった。

ところが、小西屋弥九郎は、そうでない。

この逢いがたい時代に逢って、将来大いに、武家には成す理想が多いというなら、同様に、商売としても千載一遇の時、何もさむらいに転じなくとも、自分は自分の職をもって、この時代に充分、希望も生きがいも持ち得ている者。