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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

一としきり立つと又止んでしまう、又アンコール、………二度も三度も繰り返して、とうとういくら手を叩いても聴かれなくなると、踊った男は相手の女の後に従ってお供のように護衛しながら、一同ぞろぞろとテーブルの方へ帰って来ます。浜田とまアちゃんは綺羅子とピンク色の洋服をめいめいのテーブルへ送り届けて、椅子にかけさせて、女の前で丁寧にお辞儀をしてから、やがて揃って私たちの方へやって来ました。

「やあ、今晩は。大分御ゆっくりでしたね」

そう云ったのは浜田でした。

「どうしたんだい、踊らねえのかい?」

まアちゃんは例のぞんざいな口調で、ナオミのうしろに突っ立ったまま、眩い彼女の盛装を上からしげしげと見おろして、

「約束がなけりゃあ、この次に己と踊ろうか?」

「いやだよ、まアちゃんは、下手くそだもの!」

「馬鹿云いねえ、月謝は出さねえが、これでもちゃんと踊れるから不思議だ」

と、大きな団子ッ鼻の孔をひろげて、唇を「へ」の字なりに、えへらえへら笑って見せて、

「根が御器用でいらっしゃるからね」

「ふん、威張るなよ! あのピンク色の洋服と踊ってる恰好なんざあ、あんまりいい図じゃなかったよ」