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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
十六
見ると彼女は、マントの下に一糸をも纏っていませんでした。
「何だお前は! 己に耻を掻かせたな! ばいた! 淫売! じごく!」
「おほほほほ」
その笑い声には、酒の匂がぷんぷんしました。私は今まで、彼女が酒を飲んだところを一度も見たことはなかったのです。
十六
ナオミが私を欺いていたからくりの一端は、その晩とその明くる日と二日がかりで、やっと強情な彼女の口から聞き出すことが出来ました。
私が推察した通り、彼女が鎌倉へ来たがったのは、矢張熊谷と遊びたかったからなのだそうです。扇ヶ谷に関の親類が居ると云うのは真っ赤な嘘で、長谷の大久保の別荘こそ、熊谷の叔父の家だったのです。いや、そればかりか、私が現に借りているこの離れ座敷も、実は熊谷の世話なのでした。この植木屋は大久保の邸のお出入りなので、熊谷の方から談じ込んで、どう話をつけたものか、前に居た人に立ち退いて貰い、そこへ私たちを入れるようにしたのでした。云うまでもなく、それはナオミと熊谷との相談の上でやったことで、杉崎女史の周旋だとか、東洋石油の重役云々は、全くナオミの出鱈目に過ぎなかったのです。さてこそ彼女は、自分でどんどん事を運んだ訳でした。