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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

四

「どんな風に変ったって?」

「恐ろしくハイカラになっちゃったって」

「そりゃそうだろう、僕が見たってそうだからなあ」

「そうかしら。―――一遍日本髪に結って御覧て云われたけれど、あたしイヤだから結わなかったわ」

「じゃあそのリボンは?」

「これ? これはあたしが仲店へ行って自分で買ったの。どう?」

と云って、頸をひねって、さらさらとした油気のない髪の毛を風に吹かせながら、そこにひらひら舞っている鴇色の布を私の方へ示しました。

「ああ、よく映るね、こうした方が日本髪よりいくらいいか知れやしない」

「ふん」

と、彼女は、その獅子ッ鼻の先を、ちょいとしゃくって意を得たように笑いました。悪く云えば小生意気なこの鼻先の笑い方が彼女の癖ではありましたけれど、それが却って私の眼には大へん悧巧そうに見えたものです。

四

ナオミがしきりに「鎌倉へ連れてッてよう!」とねだるので、ほんの二三日の滞在のつもりで出かけたのは八月の初め頃でした。

「なぜ二三日でなけりゃいけないの? 行くなら十日か一週間ぐらい行っていなけりゃつまらないわ」

彼女はそう云って、出がけにちょっと不平そうな顔をしましたが、何分私は会社の方が忙がしいという口実の下に郷里を引き揚げて来たのですから、それがバレると母親の手前、少し工合が悪いのでした。