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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

誰かがにたりとわらったような気がした。そして阿賀妻にとっては、その嗤笑は堀大主典であらねばならなかった。なぜお笑いなされた! と彼はまなじりを立てた。そこから一歩も退けない交渉であった。やぶれたならばそれで自分の一切は無になり虚にならねばならぬ瀬戸ぎわであった。

太い呼吸を吐いて彼は消えかけた焚火をかき立てた。目と鼻のそこの港町イシカリに、目ざす相手は来ていた。これは恵まれた機会であるとも考えられた。そういう長い考慮の末に彼の考えはたたみあげられていた。残ったことは、どう主君に告げるべきかであった。

邦夷の名に於いてなす行動に曇りがあってはならぬのであった。痩せても枯れても堂々と進退すべきであった。

「万が一、失敗したとして、殿の名にかかわることはないか?」

そう反問した。これは難問であった。――無いとは誓うことが出来なかった。あいまいに――さあ? とかしげられる水っぽい眼、堀大主典の眼の色がぽかりと浮んだ。

「うぬッ」

彼は掴んでいた粗朶でおきの山をつきくずした。ぶるッと武者ぶるいを覚えた。立ちあがって、壁につくりつけてある刀架からわざものを取り外した。