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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
六
「ありがたい、頭をさげる」
「いやおあげ下さい、おあげ下さい」
そう云って頬杖をつき、あおく暮れて行く戸外に目をやった。
六
その窓下をすッと隠れたものがあった。
堀大主典がそれを見咎めた。灰色がかった彼の顔に目に見えてかッと血の気がのぼったのである。はたしてその人影が彼をこんなにむかむかさせたのか――それは彼自身にも判らなかったが、多くの仕事に取り囲まれた人間には、どうにも抑えることの出来ぬ焦立たしさが、つまらぬことをきっかけに駈けぬける一瞬がある。
彼は噛み付くようにどなった。かつての日、争闘のために鍛えたあの強い声が咽喉からとびだした。
「たれかッ!」
手ごたえはあった。相手はその怒号に射すくんでその場に佇立した、――そういう感じが伝わって来た。
跳びあがるほど驚いたのは出張所の役人たちであった。血なまぐさい日の思い出はそんなに遠い昔ではなかった。刀にかけて正邪を決する習慣もうしなわれてはいなかった。椿事は随所に突発する可能性があった。そして、責任上まッ先にとびださねばならぬのは彼らであった。刀の下げ緒をばらッとなびかせて駈けだしたのである。
「誰か?」