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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

三

子供らがわんわんと泣きだした。

船は浮力を喪いだした。

「甲板に出ろ!」と、誰か、嗄れた声がどなった、「出ろ、ぐずぐずするな、出ろ――」

三

あかね色の雲が空にあって、そして、日暮れどきの明るみが海の上をたゆたうのだ。それが人々の顔にうつって、何か不吉な表情になっていた。

こうなっては、あげて船員の命に従うよりほか無かった。

ボートが降ろされた。

漕ぎつけて行く彼方には陸地があった。夕もやのなかに凝然とうずくまって、これは見覚えあるような山の姿であった。麓が海にせまって、隙間には黒い家が建ち並んでいた。

どこかの小さな漁港なのだ。しかもこれは、彼らが見棄てたはずの土地からそれほど遠く離れてはいなかった。それを証拠立てるように、暗くひっそりとしていた。ふと、敵意をもった他所他所しさが感ぜられた。

舳に立っていた会計士官の一人が眉をひそめた。

「人の影が一向に見えんじゃないか」

「おかしいねえ、いやにひっそり閑としているねえ」と、他の一人は腹立たしげに云った、「いかにも何でも、本船の難儀に気づかぬわけはあるまい、先程、たしか、自分は見たが」

――どういう手違いがこんな突発的な不幸事を惹き起したのか、臍を噛むような呪わしさを覚える、しかし目下は、そんな詮索をしているときでも無かった。