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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

五

「うん」

「あちら、ご書院で――」

彼は立ちあがった。

吉原兵太郎は何故か片膝立てたのだ。彼の頬肉はぴくぴく動いていた。神山外記は唇をとがらかしてそそくさと立って行った。

五

みじかい秋の日は直ぐに夕暮れであった。古びた家の黒い天井の下は、たそがれの来るのも早かった。置かれた燭台では、すすの多い黄褐色の百目ろうそくが赤く燃えていた。昼と夜が入れ替ろうとする重たいような空気のなかで、人々は、配膳を前にしてきちんと坐っていた。風もないのにときどき燭火が揺れるのだ。すると、脚たかい本膳の稜に描き込まれた定紋がきらめくのであった。

久しぶりの主君を正面の座に迎えて、嘗つての士分以上がここの大広間に居流れていた。口には出さなかったが、彼らの姿かたちには安堵の思いが浮んでいた。あるべきものがあるべき場所に戻って、ぴったりと、今は一分の隙間も無くなった。それほど大切な主君であった、――と、彼らは胸迫るように自分にうなずいていた。

しかし、正面の邦夷から見ると、昔の職制はずいぶんと欠けていた。彼の左右に順々に、ご家老、ご医師、お小姓頭など表向きのおも立ったものがそれぞれに席に着き、親ゆずりの役目を自分の位置とした軍務の連中が、お目付、お弓頭、ご近習目付等々々と居並んでいた。