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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
十一
声に応じて身近かに駈けよるものがあった。
「はッ!」
「このこと、直ぐに、その、何だ」と彼はどもるのだ。
「はい、はい」
「わ、わからんか、殿へ、とのへ――」
注進しろ――と、そう云われるまでもなく彼は走りだした。彼らの仲間によって築かれたま新しい路の上を――草鞋のあしうらにぽこぽこと感ずるまだ軟かい盛土の上を――その男は足ばやに立ち去った。
十一
その開通を待ち佗びていた邦夷の心が、阿賀妻には手に取るように判るのだ。こんなに早く――まだ暗いうちから身支度を整えて、足許の白むのを待っていた。いくらか焦れていた。焚火のあかりで、立ったり坐ったりする従僕に軽く舌打ちした。大人げないとは思いながら、何度か繰りかえした問いがまた口に出てしまった。
「まだ夜は明けぬのか」
「はい、はい、間もなく――」
従僕はあやまるように頭を低げた。凝ッとしていられない気持は、夜明けの遅い秋の朝を自分の責任のように恐縮した。
「見てまいりますです」と彼は立ちあがった。
「見てまいれ」と邦夷は云った。
云って了って彼は眼をあげた。そして、向い合せの床几に腰かけていた阿賀妻と視線を合せた。とろとろと火が燃えていたのである。