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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

八

左手にひきつけてもとの座にどんとすわった。そして右手の、節立った五本の指を火にかざし、裏を見、また表を見、それを繰りかえした。

暫らくして家中のものがはいって来た。すると彼は、あたかも予期していたように、頬のくぼんだ顔をもたげた。

「おられますか?」とまッ先に云ったのは大野順平であった。

「どうぞ」

「ちょいと内々ご相談いたしたく――存じまして」

きつい眼をした安倍誠之助が唇をふるわせながらそう言った。

そのうしろにいるまッ白い頭髪は、地位といい年輩といい、彼らの父親格にあたるあの相田清祐であった。この人が連れだっていることが何故か阿賀妻の神経にさわった。

彼はむッと唇を結んで、そっぽを向いた。

八

粗朶がぱちぱちとはねた。

そこで話の糸口をやぶらなければならぬと思うのであった。炉の正前にすわっている阿賀妻に、彼らはそれぞれの位置から向い合うようなぐあいに座を定めていた。さきの御小姓組である安倍誠之助は、ことさら慓悍げに目をかがやかせ、つんと首を立てた。丁度彼と阿賀妻との間にはいぶる炉火があり、すすけた自在鍵には南部鉄瓶が吊りさがっていた。その左は、見れば心が清爽になるような銀色の白髪を、ほつれ毛もなく結いあげた相田清祐であった。