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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

彼はこの暗さと吹きすぎる川風のなかで、こころ行くまであの怒りに身をまかすことが出来たのだ。八ツざきにしても飽き足りぬのは、オロシャの陸軍少佐と称したデフレ何とかウイッチの、むささびのような面構えであった。

それはモクチャランケ宅の熊祭りであった。双方の官吏はおのおの一人の従者を連れて巡視かたがた見物していた。土人にとっては今日が最大の祝祭日なのだ。着かざって乱舞している。その祝宴のまッさい中、かの露国陸軍少佐は、従者である通訳にこう云わせた。

「熊祭りを本日に延期したのは何故であるか」

「雨のためであろう――」と堀は自分の通訳に答えさせた、「そういうことは土人どもの自由で、本官のあずかり知るところではない」

すると彼はまたこう云わせた。

「その方どもが本官の上座にすわるのは無礼である」

これらの言葉はお互いにすぐ横にいながら、よちよちと長い時間をかかって通じて来た。途中で一ぺんアイヌの言葉になおさねばならぬのだ。何を云いだしたかと耳を傾け、顔色をうかがうのだが、赤いひげと深い眼、碧いビイドロのような瞳の表情は想像の外であった。とび色のにこ毛に蔽われた皮膚からも人間の感じは受け取れなかった。