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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

それでも理解し答えようとするのである。と、そのときであった。ふいに皿のような殴打が少佐の手からとんで来た。はッしと頬に来て、ぱッと火を噴いた。堀は、反射的に抜刀していた。だが、わなわなと顫えるだけで、彼は斬ることが出来なかったのである。事なかれの外交方針にうしろからどやしつけられていたのである。

爆発させ得なかった怒気は消えることが無かった。しっかり胸にたたきこまれていた。身に浸みとおり、性格に喰い入って行った。従って彼のなすこと考えることは、一にかかって、彼らに対する何らかの反撃であった。この問題にくらべると、他のことはすべて、どれもこれも、些々たり眇たることに過ぎない。阿賀妻などのことは吹けば飛ぶ問題だ。煽てあげ喜ばせて開拓の方針に沿わすればよい。従って今夜、カラフト問題が突発しなかったら、両者は無縁の衆生であったろう。その防備に思いを致したとき彼は忽然と思いだした。北門警備の鎖鑰たらんと謝罪して出たこれら降伏士族に、云った言葉の責任を取って貰わねばならぬ――そういう時機であった。何かひらめくようにそう考えた。意地わるくその言葉にかかずらう積りではなかったが、その任に堪え得るものはその一団のもの以外にさしあたり心当りも無かったのだ。