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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
そこに何が見えるというのであろう? 見えるもの、見ようとしているものは、野の底にあるトウベツの地である。
彼はつきとばされたように駈けだした。
「阿賀妻さん――」
気配を感じた彼がふり向いた。同時に彼らは眼を見あわせた。そして何でもないように外らした。
「いよいよはじめたいと思いまして――」と松岡は云うのであった。言葉のきれめで唇をかみしめた。話しながら、そこに膝をついて蹲んで了い、俯向いて云いつづけた。「きこえて参りますでしょう?――あの声、あのざわめき、われらシップの住民は、賑いと云うことがこの世にあったと、今日はじめて思いだしたです」そうとぎれて、彼はまた唇を咬んでいる。両手をのばして、彼は傍らにあった大きな角材を、その角のところで捉えていた。「うれしげに、今日は餅まきがあるといよ、と、子供らは云うまでもない、われわれの家内や老人どもも、まるで童児のようにそわそわしてやって参ったのでございますよ、みんな連れ立って、ほこらしげに街を歩きながら、われの夫やわれの父親や、または伜と云われるものが、ごらんなさい、これこの通り、やれば何でも出来るのだ、と、うちそろって見にまいったのです、建前のお祝いにあやかりたくもありましょう、変った時世をこうして生きぬくという力も見たいのでありましょう――ご家老さま、今日の日