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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

たちまち二つ目が追いかけてとんで来た。それに跳びつく彼女らの嬌声が――彼女らもまたこんなはしたない声が出せるのかと、そう驚くほど花やかに周囲にひびきわたった。だが、はたして誰が拾ったか、それを見定める隙もなく、それッ、と、うしろの方で叫んだ。幸運の餅は反対の隅に向って投げられるところであった。先を争う人間がひと塊りになって、泥をかくようにして西側になだれ寄った。餅はもう墜ちていた。その地ひびきをどすんと耳にして、気弱いものは呼吸をはずませながら立ちどまった。

こんどは、と、ひらめくように次の方角を考えて夢中で駈けだした。

南は川であった。イシカリ川の黒い水が相かわらずゆったりと流れていた。人々は、そこの切り立った崖ぶちとこの建物とのあいだに、狭い空地いっぱいに塊った。

しかし、目あての餅はすげなく彼らの頭上をとんで行った。誰も拾いてのない川の中に、彼らのいるところよりは可成り低い水面に、抛物線を描いてずぶりと墜ちた。流れの下にすッと潜ったような落ちかたであった。もったいない、そうつぶやく声に、ほんとにさ、と、別の声が応じた。まだ何か毒づきたくてむかむかしていた彼らの頭の上を、今度は赤い餅があざ笑うようにとんで行った。