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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
けれども、彼らの年齢では幻覚もまた生きて動いているのだ。二度目にびっくりしたときには、彼の目の前の空中で、撒かれる餅の白い花が散りみだれていた。
「なにを、しとる!」
そう背中をどやされて彼はほんとの現実にかえった。餅撒きはたけなわになっていた。威勢よく投げられた餅が、集まった人々の頭の上でぱっと花のように散開する。文字通りこれは撒かれているのであった。餅もまた花びらのようであった。まるで人々の気持に感応して、くるめくように落ちている。――そう見えるのであろう。
「これ!」と誰かが高倉祐吉の尻をおして云った。
「ひとつ所ばっかり投げるじゃないよ、ぐるぐると、四方に、まんべんなく」
はんてんの短かい裾を、それさえ邪まッけに尻までからげ、今日の日のために匂うような紺の股引きをはいて来た松岡長吉は、つまり棟梁次席をもって任じていた。むろん彼も自分の妻子がどこにいるかは知っていた。しかし彼の気持はそういう私情を娯んでいる暇がなかった。一しょに喜ぶことだ。気がつくと、そこには阿賀妻の姿も見えなくなっていた。すると彼はその一方の肩に、当然のこととして、阿賀妻代理としての責任も感じて来た。