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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

「何ですか?」と誰かが云った。

「ああ」と松岡は嘆息して首をおとした。

別のものが近い水辺を指さして云った。

「はや、もう船に乗って」

「帰りよるのか――」と他のものが上半身をのりだすようにした。

彼らの家族はその船に一ぱいになって、ゆっくり漕ぎだしたところであった。一船おくらした船着き場のものに向ってにぎにぎしく言葉を残し、あの風呂敷包みをたかくさしあげた。中流まで漕ぎだすと、西陽が彼女らの目を射るのだ。そこで最後の会釈をしてむこう向きになった。すると彼女らの心は自分らの草葺き小屋にとびこんでいた。船が着く。ひときわ明るい夕陽のなかに、彼女らはせかせかと歩いて小さくなって行った。

「みんな満足して帰りおる、さ、ね」とうれしそうに云った。それは門田与太郎であった。と、誰かが突きとばすように遮った。

「ばかなことを云うな!」

え?――という風に彼らはその声の方をのぞきこんだ。棟梁三谷三次であった。

「とにかく――」と松岡は促した。まッ先にかけ梯子をおりはじめた彼は頭の上にまた聞いた。

「棟梁はかざりものじゃねえ」

「そうとも、犒わなくッちゃ」

すかさずそう云って、松岡はぽんととび下りた。