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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
その男はかんな屑の上にながくなった。泳ぐように両腕を投げだし、胴体をよじ曲げていた。ふいの打撲で申し分なくへばってしまった。
――もちろんそれらはあッと思う間に起きた出来事であった。誰か二三人とびだして行ったらしかったが、それさえ気にならぬほど茫然として了ったのだ。彼らはそれを取り囲んだまま表情もなく見おろしていた。のびたものがうめきだしたときにはペッと唾をはいた。
「おい門田――」と松岡はその人々のなかに親しい朋輩を呼んで云った、「あとを片づけて引き取って貰ってくれんか、自分はこの、腰のぬけた棟梁を送りとどけて来る」
「一人でか?」
「ああ一人で――一人で――ちゃんと引き受けておりますから」
彼は腕をのばして倒れた男のえんびを引き起した。よろける奴を邪慳にこづきまわした。このとき、度胆をぬいてくれた松岡は慥かに一歩機先を制していたのだ。もはや相手は彼の云うなりであった。叱咤して歩かせた。にじむように昏れだした宵やみのなかに酔漢はふらつき、数歩のうちにばったり倒れた。
「起きろ、おやじ――」と松岡はそのものの腕をつかまえた。
肩にぐったり凭れかかって、もしもこのまま硬ばったとしても、そのものが彼らに加えた侮辱にくらべたなら、その酬いはまだ軽すぎるというものだ、――松岡はそう思った。