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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「――やって貰おう、さっそく」
そう云ったのは阿賀妻であった。脚の装束をつけたまま彼は立て膝で松岡長吉の枕もとに寄っていた。けれども彼は、怪我人の容体を懸念する前に、彼の前にいる門田与太郎をまともにのぞきこんだのである。出目やそっ歯や、ひろくもない額に年より早い横じわの見える門田与太郎の顔は、それは見ただけで、人の上に立ち、人をひきいてはきはき処理出来る貌とは受け取れなかった。それにも拘らず奮い立たさなければならない場合に立ちいたっていた。頼もしく見えるのは、ま一文字に黒々と、塗りたくったような太い眉毛だ。拙くてのろのろしているが、一旦こうと決めてしまったら、生命がすりきれてもそれに喰いついて離れないのではないか――阿賀妻は見ていた。落ち着きはらった眼であった。どこかにこやかな微笑を包んだような彼のまなざしは、唯ながめているに過ぎないのだが、見つめられている相手には身動きも出来ない――何か底力をもって圧されていた。門田与太郎は腕を組んで、ふるえる身体をおしつけていた。
やっと眼をあげた。
「やってくれ」と怪我人が下から云うのであった、「身どもも二三日したならば」