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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「なんじゃ?」と戸田老人が云った。生気のない灰がかった眼で祐吉の視線をたどって、「何じゃ、くちなわか、――くちなわが何じゃ、くちなわどころか、これから奥には、ひ熊もいれば狼もおる、群れをなして徘徊しおる」
青大将はもたげた首を振り動かして、悠然とあたりの藪のにおいを嗅いだ。いたどりの根もとにすっと伸びて行った。とぐろを巻いた長い身体が徐ろにひっぱりこまれて、岩角を越える黄味をおびた白い腹は、ぶきみな粘液をなすりつけているような気がした。さくさくと草刈る音におどろいた、――祐吉は我にかえってほッと溜息を吐いた。
ちらりと彼の脳裡に映ったのは石狩役所で見たレミントン銃であった。
戸田老人は捻り鉢巻きをして熊笹を刈りひろげていた。
「枯れた枝葉を拾うて来なさい」と彼は命じた。
明るい日の下で燃える火は、ちょろちょろと――焔があるかないか見定めることも出来なかった。戸田老人はその上に熊笹を積みあげた。これら痩せ地にはびこる多年生の植物は強いあくどい油をその体内に貯えている、火が移りさえすれば際限なく燃えあがる――と、彼は自信をもってそう云った。
「よいか、よろしいか、――この方向を」