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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

翌日は左に曲った。流れを溯って、方角は寅と卯の境あたりに取った。その先にある某地点、この谷川の水が丑寅の方向に転ずるところ、そこが第二の屯営であろう。ひそかに大野順平は自分の胸にそう期していた。即ち、そこに立ちどまって右手を望めば、北は高く、南はややなだらかに、二つの尾根の出会う凹みが発見出来ることになっていた。さきの日帰りの途を戍亥にとって、彼の記憶に彫っておいた山の容貌である。そこが堺であった。地の勢いはあちらとこちらに区分され、その分水嶺を超えたらもうこちらのものである。磁石の虫は掌でぶるぶる顫えていた。

「辰巳でしたな」と大野は云った。

「さよう――辰巳」と戸田老人があえぐように答えた。

彼もまた丁度そのときそのことを考えていたにちがいない。考えることも深かった上に突兀した谿谷は相当な登りにかかっていた。おいおいと肩の荷が骨にこたえて来た。

六十間ごとに付ける目印しは、こう屈曲の多い渓流では無理であった。見通しも不可能であった。曲る角々の木を伐り倒し、崖をけずって新しい土を掘り返すのが精一ぱいであった。すると道路係りは、いよいよ手間取る難所に導かれていることになる、――それも止むを得ないのだ。