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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
赤い焔で二人の顔はそれぞれ異様な凄みをただよわしていた。むろん長くは目をとめていなかった。ついと外らしていた。いつの間にか、館の屋根裏や壁板もすっかり煤けているのに気づいた。
――時間が来れば、東の空はいやでも白むであろう。そんな判りきったことをさぐらせるために従僕を追い立てたのである。そこの障子窓を開けば戸外はまる見えであることも忘れていたわけではあるまい。それを、退けるように表に駈け出させてしまった。彼はそこで黎明の来るのを待たねばならなかった。仕えている主人の気持が漠然と反映しているのだ。黒い小屋々々の間をさまよいながら、夜が白むまで、戻ることは出来ないであろうと考えていた。なかなか姿を見せなかった。
肩に沁みる寒さがあった。
「蝦夷地といえども例外には致すまい」思いだしたように邦夷がそう云った。
「左様――」阿賀妻が低い声でうなずいた。彼は復唱するように繰りかえした。
「例外はございますまい」
彼らの対話はそれでとぎれた。あるいはそれで充分であった。音のない静かさのなかで、自分らの発したそれらの言葉があたりに浮游しているかと思われた。少しの曖昧さもなくじーんと耳にひびいて、文字に書き記したほどに明瞭りした。